Data Integrity, Pharmaceutical

データインテグリティの誤解

昨今、製薬業界ではデータインテグリティに関する関心が高まっている。しかしである。多くの企業や、講演・書籍を執筆しているコンサルテントに至るまで適切にデータインテグリティを理解している人は少ないと思われる。 誤解その1 不正データインテグリティは、不正や改ざんに焦点を当てているケースが多いと見受けられる。データインテグリティが焦点を当てるべきは不正や改ざんのみではないのである。例えば、故意に変更したデータと、事故(不注意)によって変更されてしまったデータがあったとしよう。どちらの方が患者の安全性にとって重大であろうか。両者は全く同じである。そもそも、製薬業界においてそんなに不正や改ざんが多く日常茶飯事のことなのであろうか。答えはNoである。つまり、データインテグリティにおいて重要なことは、故意か事故かにかかわらずデータのあらゆる意図しない変更から保護することである。 誤解その2 電子記録データインテグリティにおいて、電子記録に焦点を当てているケースがほとんどである。では、再び質問である。紙の記録の改ざんと電子の記録の改ざんでは、どちらが患者の安全性にとって重要であろうか。まったく同じである。データインテグリティの原則は、紙の記録および電子の記録の両者に等しく適用されなければならない。 誤解その3 改ざんの定義改ざんという言葉を聞くと、不正を想像するのではないだろうか。それは違う。改ざんとは「意図しない変更」のことを言う。悪意があろうがなかろうが、意図した変更でないものはすべて改ざんである。つまり、事故やケアレスミスによって書き換わったデータはすべて改ざんである。 誤解その4 意図した変更意図した変更という言葉も、悪意(不正)を想像するのではないだろうか。そうではない。例えば、SOPを誤解してデータを作成したり、変更する行為も意図した変更である。つまり日常的な間違った行為である。作業者は正しいと思って作業しているのではあるが、教育が不十分であったり、長年同じ作業を実施する中で、思い込み、思い入れ、勘違いが生じるのである。そのため、ダブルチェックや再教育が重要となるのである。 誤解その5 リスクベースドアプローチ リスクベースドアプローチは、リスクの高い製品やプロセスに焦点を当てると思っている人も少なくない。そうではない。規制当局は、患者の安全性を担保するために規制要件を強化する。しかしながら、規制要件を強化すれば企業はコンプライアンスコストを支出しなければならない。増加したコンプライアンスコストは企業が自腹を切るわけではなく、薬価に反映されてしまう。そのため、患者負担が増大してしまうのである。大げさなことを言えば、高額所得者しか救われない医療になってしまうのである。このことは規制当局にとってジレンマである。そこでFDAは2003年9月に、リスクベースドアプローチという新しい医薬品監視プログラムを発表した。それ以前はGMPによって、どんな医薬品であろうが同じ製造管理、品質管理が求められてきた。リスクベースドアプローチでは、抗がん剤、向精神薬、ワクチン、血液製剤のようなリスクの高い製品やそれらプロセスはこれまで通り、厳重な製造管理・品質管理を求める。一方で、ビタミン剤や栄養剤などに代表される比較的リスクの低い医薬品には、それほど厳格な管理を求めないのである。つまり、リスクにふさわしい程度でコンプライアンスコストを下げ、患者の安全性を担保しつつも患者負担を減らすのがリスクベースドアプローチの概念である。 データインテグリティに関する規程・手順書 イーコンプレスでは「データインテグリティ規程・手順書」のひな形の販売を開始いたしました。 データインテグリティ規程・手順書  55,000円(税込)【目次】データインテグリティ規程1. 目的2. 適用範囲3. 用語の定義4. 背景5. データインテグリティの原則6. データガバナンス6.1 データインテグリティのためのステップ6.1.1 教育およびコミュニケーション6.1.2 リスクの発見および低減6.1.3 技術およびITシステム6.1.4 […]

CAPA

製薬企業ではなぜCAPAの導入が遅れているのか?

製薬企業および医療機器企業において、CAPA(是正処置・予防処置)を導入することは至上命題である。 医療機器業界においては、ISO-13485およびQMS省令などでCAPAが要求されており、程度の差こそあれども、どの企業もインプリメントは終えているはずだ。 しかしである、製薬企業ではまだCAPAを導入していない企業が多くある。というよりもCAPA事態を知らない企業も存在する。その理由は、GMP省令などの本邦の規制要件でCAPAが要求されていないためである。米国では、cGMPには直接記載がないものの、2006年に発行された「cGMPの品質システムからのアプローチ」と呼ばれるガイダンスにおいて、CAPAを要求している。また欧州においても、PIC/S GMPでCAPAが明確に要求されている。本邦において、唯一記載があるのは、2010年に課長通知として発出されたICH-Q10「医薬品品質システム」のみである。(下図参照) CAPAに関する規程・手順書・様式 【FDA CFR 820 QSR対応】 CAPA規程・手順書・様式 FDA QSRに沿った形のCAPAに関する規程・手順書・様式集です。QSR(品質システム規則)査察で最も指摘が出されているのがCAPAです。 これから作成する医療機器企業やISO-14971認証審査を予定している企業、認証機関から改善指示を受けた企業向けに、サンプルをご用意いたしました。MS-Word形式ですので、貴社でご自由に加筆・修正を行っていただけます。 ご購入はこちら。 【ISO-13485:2016対応】 CAPA規程・手順書・様式 ISO-13485:2016に沿った形のCAPAに関する規程・手順書・様式集です。QSR(品質システム規則)査察で最も指摘が出されているのがCAPAです。 これから作成する医療機器企業やISO-14971認証審査を予定している企業、認証機関から改善指示を受けた企業向けに、サンプルをご用意いたしました。MS-Word形式ですので、貴社でご自由に加筆・修正を行っていただけます。 ご購入はこちら。 ≪様式一覧≫※ご注文いただきますと、以下の様式を電子メールにて Wordファイル形式で納品いたします。 ・

Design Control

設計バリデーション(設計の妥当性確認)とは

設計バリデーションは「FDA 21CRF Part820 Quality System Regulation」の「Subpart C§820.30(g) Design validation」で規定されている。 (g) 設計の妥当性確認各製造業者は、手順を確立し維持し、設計の妥当性確認をすること。設計の妥当性確認は、定義さ れた運用手順の下で、初期製造のユニット、ロット、またはバッチまたはそれと同様な対象に対し て行う。設計の妥当性確認は、機器が定義された使用者のニーズおよび意図された用途に適合する ことを保証し、実際のまたは模擬した使用条件下での製造ユニットの試験を含むこと。設計の妥当 性確認は、適切な場合はソフトウェアの妥当性確認および危険分析を含むこと。設計の妥当性確認 の結果、例えば設計方法、日付および妥当性確認をした者(一人または複数)を特定するものを設 計履歴ファイル(DHF)に文書化すること。 参考 21 CFR

Quality Risk Management, Risk Management

航空機はなぜ飛行が許されているのか?

我々はリスクを考えるときに、常に重大性と発生確率をかけて判断している。例えば、飛行機に乗る際に、もし墜落すればその結果は「致命的」すなわちほぼ助からないことを誰でもが知っている。しかしながらなぜ飛行機に乗るかというと、まず墜落しないと考えているからである。つまり、重大性は「致命的」でも発生確率は「ほぼ考えられない」なのである。 アメリカの国家運輸安全委員会 (NTSB) の行った調査によると、航空機に乗って死亡事故に遭遇する確率は0.0009%であるという。アメリカ国内に限って言えば0.000034%である。これは8,200年間毎日無作為に選んだ航空機に乗って一度事故に遭うか遭わないかという確率なのである。自動車死亡事故が0.03%であるので、その33分の1以下だ。航空機があらゆる輸送手段の中で最も安全と言われる所以である。 このことを如実に証明したデータがある。2001年9月のアメリカ同時多発テロ事件の後、アメリカ人の多くが民間航空機による移動を避けて自家用車による移動を選択したために、同年の10月から12月までのアメリカにおける自動車事故による死者の数は前年比で約1,000人増加した。 R-MAP(下図)において、1000年に1度以下は、重大性にかかわらずCであり、安全な領域となる。 航空機事故については、重大なインシデントを含め、徹底的な事故調査が実施される。 それによって、設計変更等を繰り返し、発生確率を極めて下げることによって安全性を高めているのである。 リスクマネジメントでは重大性はほぼ下がらない 多くのリスクマネジメントの規格やガイドラインなどでは、重大性と発生確率のどちらかまたは両方を低減させることを求めている。 ISO-14971では「リスクコントロール手段は、危害の重大さ若しくは危害の発生確率又はその両者を減少させることができる」との記載がある。 しかしながら、重大性についてはリスクコントロール実施後も変化しない(危害の重大性は不変)という認識が一般的である。 つまり、重大性を下げることは極めて困難なのである。 例えば、墜落しても死亡しない飛行機は造れない。しかしながら、極めて墜落しない飛行機は設計できるのである。 リスクマネジメントを実施して、重大性を下げようと苦心している人をしばしば見かけるが、ほとんど困難であることを認識されたい。 過日、あるコンサルタントのセミナーを受講した当社クライアントから、『重大性は下がらないと言っている人がいるが、それは間違いである。例えば90℃になる温度を60℃に下げれば重大性は下がる。』と説明を受けたが、どちらが正しいのかといった問合せがあった。 おそらく、当該コンサルタントは筆者の主張を引用しているのだと思われる。 しかしながら、当該コンサルタントの主張はパラドックスである。 そもそも90℃を60℃に下げることが可能なのであれば、当初から要求仕様で60℃と要求すれば良いではないか。 この主張が許されるのなら、要求仕様書で適当な(大き目な)基準や許容公差を求めておいて、リスクマネジメントにおいてリスクを下げたように繕うことが可能となる。これではお手盛りである。

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