ユーザビリティという言葉を聞くと「使いやすさ」を想像するかも知れない。しかしながら、医療機器におけるユーザビリティは「使いやすさ」のことではない。
FDAは過去に「ヒューマンファクターエンジニアリング(人間要因工学)」という用語を使用し「ユーザビリティエンジニアリング」という用語を使用してこなかった歴史がある。その理由は、医療機器は使いやすくすることが目的ではなく、安全にすることが重要であるからである。
例えば、100円ライターはノックが重く設計されている。火が着きにくい訳であるが、これは子供がいたずらをして火事を起こさないなどのための安全設計である。
このように安全のためわざと使いにくくすることもユーザビリティである。
筆者はしばしばリスクマネジメントとユーザビリティエンジニアリングの違いについて質問を受けることがある。
実はユーザビリティエンジニアリングは、リスクマネジメントに包含されている。ただし、適用範囲が異なるのである。
リスクマネジメント(ISO-14971)の適用範囲は異常使用も含まれている。これに対してユーザビリティエンジニアリング(IEC-62366-1)の適用範囲には異常使用が含まれない。
つまり、通常の使用において発生する「使用エラー」(Use Error)に注目するのである。
ここで「使用エラー」の定義について適切に理解しておく必要がある。
「使用エラー」はヒューマンエラーとは限らないのである。例えば、使用者の属性(例:子供)によっては、正しく使用しようと思っても、力不足や字が読めない、理解ができないなどの理由によって使用できないこともあるのである。
また「使用エラー」は医療機器のインターフェースのまずさから発生することもある。分かりにくい、紛らわしい、識別しにくい、間違いやすいなどのインターフェースによって「使用エラー」が発生する。
そのため、ユーザビリティエンジニアリングでは、インターフェースに注目してリスクマネジメントを実施することとなる。
インターフェースは、LCD(液晶ディスプレイ)のみではなく、人間の視覚、聴覚、触覚などによって認識されるすべてのものが含まれる。
例えば、取扱説明書、ラベル、ボタン、形状、色、アラーム音などである。
医療機器の事故は「ユーザの意図した利用」と「機器設計者の設計思想」とのギャップによって発生するといわれている。
インターフェースを如何に直感的で分かりやすく間違いのないものとするかは、機器設計者がどれだけ機器の使用され方を理解しているかにかかっている。
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